若き蒔絵師の挑戦

金沢市内のとあるカフェで行われたワークショップ。職人さんは参加者のアイデアを丁寧に聞きながら、一緒に手を動かしていきます。アドバイスを受けた参加者は職人さんの手仕事を一緒に体験。とても細かい作業で、息をする事を忘れてしまいます。緊張感を保ちながらあっという間に流れていく時間。作業の合間には、職人さんの穏やかなトークで店内には笑いが溢れていました。

蒔絵を施した琥珀。


突然ですが、みなさん「蒔絵(まきえ)」を知っていますか?僕は恥ずかしながら、金沢に移住するまで知りませんでした。何度かどこかで目にしたことはあったのですが、「漆器」という言葉と一括りになって、器に施された装飾に名称があることを知りませんでした。そして、「蒔絵」は漆を塗る職人さんが絵付けをしているものだと思っていたのです。「蒔絵」とは漆工芸技法の一つで、 漆器の表面に漆で文様、文字などを描き、それが乾かないうちに金や銀などの金属粉を「蒔く」ことで器面に定着させる技法です。その他にも、漆器の代表的な加飾技法には、金銀の薄板を定着させる「平文(ひょうもん)や漆器表面に溝を彫って金銀消粉(箔を原料にした消粉)を埋め込む「沈金(ちんきん)」、夜光貝、アワビ貝などを文様の形に切り透かしたものを貼ったり埋め込んだりする「螺鈿(らでん)」などがあり、それぞれに従事する職人さんがいます。

参加者のアイデアをヒアリングする針谷さん。


今回は、蒔絵を施したアクセサリーづくりのワークショップを取材させていただきました。蒔絵師さんの針谷さんとの出会いは僕が初めて、石川県は山中地域を訪れたときでした。工房をお邪魔して、蒔絵の作業工程や歴史などをお伺いし、見学後は漆器の問屋さんまで案内して頂きました。そんな針谷さんが蒔絵を蝶貝に施したアクセサリーブランド「Bisai(びさい)」をスタートされ、販売だけではなく、お客さんに蒔絵を体験してほしいとワークショップを企画されたのです。「漆器は装飾を施さないシンプルなものが増えていて、蒔絵の出番はかなり減ってしまっています。手に取りやすい形にすることで、より多くの人に蒔絵を届けたい、知ってもらいたいという想いからアクセサリーづくりを始めました。」と話す針谷さん。そんな針谷さんが行っているワークショップの様子を写真で順番にご紹介します。

下描きがしやすいように表面を研ぎ荒らします。

漆を塗る前の下書きをします。

絵付けをする前に筆の進め方をレクチャー。

漆をつけた筆で絵付けをします。

金粉の入った粉筒を指で振動をさせながら、絵付けの上に蒔いていきます。

余分な粉を筆で優しく払います。

絵付けした部分に金粉が乗りました。

金粉を定着させるために2〜3日漆風呂で乾燥させます。乾燥後に生漆で粉固めをし乾燥させたのち絵を磨いて仕上げて完成です。

当日お越しになれていたお客さんも、後日、自らが絵付けしたアクセサリーが届くのを楽しみにしていられる様子でした。蒔絵は、古くから伝わる伝統技法の一つですが、山中地域では、年々蒔絵師さんの数は減ってきているそうです。時代が移り変わり、私たちの生活スタイルも変化し、新しいプロダクトが毎日のように誕生していますが、その中でも昔ながらの製造工程を守り続けて、商品開発を行っているケースも少なくありません。伝統技術も用途を変え、様々な素材や製品とコラボしていくことで新しい見せ方や発信の仕方がまだまだ沢山あるように感じました。石川県は山中地域で誕生した蒔絵ブランド「Bisai」のこれからの進化に注目です。

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